2016年11月12日土曜日

現代都市政策研究会2016年9月例会感想


(2016年9月例会感想) 

「都市をたたむ」を聞いて
T.     S.



  今回は首都大学東京の饗庭先生から「都市をたたむ~人口減少時代の都市計画はどのようにあるべきか、具体的な事例を通じて考える~」についてのお話を伺いました。印象的だったのが、人口が減少していくことは変わらないので、これからの時代、自治体に求められるのは地域間での人の奪い合いではなく、人口減少に適応した政策を考え、マネージメントしていくことであるという先生のお言葉でした。

  私は大学時代に欧州の比較都市史研究を専門とする教授の下で学んでいたことがあり、その頃に、コンパクトシティ政策等についても少しかじったことがあったので、今回のお話は大変興味深いものでした。例えば、ヨーロッパの都市(例えば、ドイツやフランス、イタリア等)の場合、中世時代の都市形成の特徴として市民が暮らす巨大な都市の周りに外敵から身を守るための、あるいは内部統治のための街壁を形成した結果として、現代のヨーロッパ都市は街壁を環状線へと変貌させ、郊外や他の都市と交通網を結んだ、そもそもの都市形成がコンパクトシティに馴染みやすい発展を遂げたと学んだことがあります。

他方で、今回の先生のお話では、日本における都市空間の拡大・縮小の特徴として、スプロールからスポンジへの変容があげられるというものがありました。日本は、戦後の農地解放によって中規模土地所有者たちの個々の意思決定によって土地が切売りされた結果として、ぽこぽこと虫食い的に土地が切開かれて拡大(スプロール)していき、逆に人口が減少する際には、空き家が点在し始め、スポンジ状に都市が小さくなっていくというものです。これらの話を併せると、日本の都市空間の拡大・縮小の特徴は、今後の人口減少時代において、大陸の先進国と同じには語ることができない、特有の難しさがあるのではないかと感じさせられました。

また、先生が実際に関わった事例として国立市谷保の空き家のお話がありました。大きい家で借り手が見つからず、そのままになってしまっていた家をいかに活用するかという事例で、大家さんや地域住民に受け入れてもらうために、建築士と大学の先生が学生や地域住民を交えた検討を行い。シェアハウスとしてできるだけ多くの人々で費用分散を図るというものでした。ポイントはあえて行政や民間のディベロッパー等を利用しなかったということでした。特に行政を利用しなかったのは、公的資金を投入するとなると、協議会等に諮る関係で、計画作成だけで3年かかってしまったりする等、意思決定に時間を要するからとのことでした。

  空き家問題については、私自身が東京出身で、東京の自治体で働いてみて少し驚いたことの一つで、比較的、人口流入の傾向にあると思っていた東京においても、空き家問題が顕在化し、地方都市だけの問題ではない、今後の東京の課題の一つなのだと知りました。この空き家問題については、私が仕事で高齢介護分野にいるときに実務で少し関わったことがあるのですが、確かに、行政で公的資金を投入するとなると、調査や評価に時間がかかります。また、行政主導で公的資金を投入するとなると、どうしても福祉分野や子育て分野の建物として活用できないかという話がでます。しかし、空き家は多くの場合、古い物件で、建築基準法の用途変更やバリアフリー法関連、消防法等のハードルを越えることが難しく、これらの分野での活用がとても困難である印象です。また、おそらく、今後もこれらの基準を緩和させることは、難しいのではないかと考えられます。

ですので、今回、伺った事例のように地域の人を巻き込んだ住民主体の活用方法の模索や住民主体の活動は、今後の先駆けとなる事例だったのではないかと思います。また、今後は、行政もこのような主体的に活動する団体を支援できるよう、早い段階で関係法令等の専門的な観点から助言や、求めのある場合には提案等を行えるような体制づくりをしていくことが必要とされているのではないかと感じました。

  今回のお話は、学生時代にゼミでやっていた内容にも関わりのある話でありましたし、実際に自分が行政で働いて現実の難しさを知った事例とも関係する話であったので、とても刺激的でした。皮肉にもこれからの人口減少の中で、高齢者として生きるのは、実は自分自身であったり、自分たちの子供たちの世代であると思うので、私が将来、このような分野で関わることがあった時に、行政に対して、求められるものを実行に移せるよう、今後も知識や経験を積み上げていきたいと思います。

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