2016年9月17日土曜日

現代都市政策研究会2016年7月例会感想




大都市の闇
                                                    H.     S.



「亡くなったAさんは、父は行方不明。母が生活を支えてくれていたが多感な時期にその母も失った。

さまよう心を埋めてくれたのは風俗の世界だった。「なんでも相談しなさい」マネージャーが優しい声をかけてくれた。誰よりも頼りにできると思った。甘い言葉に誘われて、風俗が華美な世界に思えていった。過酷な内容とは知らされずに、安易に「高収入」に惹かれていった。自分にもできる高収入はなにより魅力的だった。

 でも、支配の手段として暴力があった。「逃げたらどうなるか」と脅されてそこにいるしかなかった。それでも過酷な性的サービスに嫌気がさして反発した。言いなりにならないことから歌舞伎町の路上で暴力を振るわれ、その場から警察に保護された。

 婦人保護施設にきたAさんは、「二度とあの世界に戻りたくない」そう言いきった。「ここからやり直そう」新しい生活を求めてゆくはずだった。しかし、再び風俗の世界に戻っていった。

 呂律のまわらない言葉で時々施設に電話が入った。「また、戻りたいよ」「時どき、電話するね」。

 けれども、Aさんを待っていたのは死だった。デリバリの先のホテルの廊下で遺体となって発見された。警察からは急性心不全と言われた。本当にそうだろうか。28歳の人生だった。

 切ない。死ななくてよかったのに。家族のいないAさんは、無縁仏としてお寺に埋葬された。やりきれない思いで見送った。」

 全国婦人保護施設等連絡協議会会長の横田千代子さんに伺った話である。

婦人保護施設は買収防止法で、行き場をなくした女性たちを保護、自立させる施設として始まった。それでも2014年の厚生労働省調査では、売春による保護は4%にしかすぎないという。

 しかし、ほんとうに保護を必要とする女性たちが減ったのだろうか。昭和55年頃横田さんの施設にいる人の平均年齢は56歳ぐらいだった。けれども、現在は平均年齢36歳に下がっている。もっとも多いのが20代で次いで3040代、1人だけだが10代の女性もいる。都市の闇に取り残されている女性はもっといるのではないだろうか。

 入所者の70%が精神科受診者である。病名は統合失調症感情障害、双極性障害、心因反応、PTSD、自閉症スペクトラム症候群、覚せい剤残滓性障害などさまざまだ。

 同時に特徴的なことは、暴力を受けてきた人が91%とほとんどの女性が暴力を経験している。相手は、夫、内縁の夫、実父、実母、継父、祖父、叔父、兄弟、その他知人、他人など。性虐待を受けた人も60%を超えている。

 女性たちに共通するのが、軽度の知的障害であったり、また、コミュニケーションがうまく取れないこと。自分をうまく人に伝えることができないなかで、例えば風俗にしか生きる道が見いだせない。そんな女性を風俗は商品としてからめ取っていく。Bさんは、軽度の知的障害があり児童養護施設で育った。10代で性風俗の世界に入りAV女優をしてきた。高収入を得る経験をしたBさんは施設では生活できない。家庭への憧れを持っている。「子どもが欲しい。相手が誰でもいい、妊娠したい」いつもそう言っていた。でも、「デビューしていた自分が誇らしいと思う部分もある」とも横田さんは聞いている。本当の気持ちは不安なのだろう。

実は、こうした女性たちを私たちは見ていないだけなのではないだろうか。「施設にたどり着く女性たちはほとんどの人がとてもさびしがり屋です。孤独です。家族からも愛する人からも見放されて、時には自分が産んだ子どもとも別れなければならない状況に置かれる人も少なくありません。だからと言って、「生きる力」がないわけではありません。生きる逞しさも備えています。ただ、「何のために」「誰のために」とほとんどの人が「生きる目的」を問いかけながら生活しています。人と共に生きる何かが社会から奪われているように思えてなりません」と横田さんはいう。

NPObondプロジェクトが2011年、渋谷で101人の12歳から29歳までの若い女性に「生きる力アンケート」調査をした。「消えたい」「死にたい」と64%の少女が回答している。居場所のない女性たちが寂しさを紛らわせるために援助交際をしている。背景に父親からの性虐待、母親からの虐待を受けていることもあるが、特に理由がなくても「漠然とした不安感・空虚感・孤独感」から家出に至ることもあるという。中には自殺未遂の少女も16%いる。性的市場でそうした家出少女の取引がなされているそうだ。



これは一体なんだろう。華やかな都会の陰で実は不安を抱えている少女がいる。そして、売春も実は減っていないのではないか。

容姿による差別、うまいサービスをできない女性には暴力が振るわれたり、ドライアイスを両手に持たせるなどの虐待が現にあるのだ。一方で、高い報酬、甘い言葉や話し相手になってくれるという安心感から抜け出せないという気持ちがつくられる。



これは、性を売買しているのはない。もっと、人間を商品化して序列化しているのだと思う。そして、その根っこのところは、多くの若者の持つ不安感と共通する。誰かに承認して欲しい。ダイバーシティという言葉がはやっているけれども、それが高学歴、高いコミュニケーション能力を持つものは男女を問わず高い評価を受けるということであれば、きっとそれは間違っている。人が安全に安心して暮らせ、将来に小さくとも希望を持てることが守られねば、みんなが豺狼と成り果ててしまうだろう。

横田さんの話を聞いてそんなことを考えた。



横田さんの主張は女性支援法(仮称)をつくりもっと女性を救済できるようにしたいということ。

それは、まったくそうだと思うのだが、私は、制度をどんなに整備しても安心を届けるのは難しいのだと思った。まず、若い人たちの不安を受け止める相談をする。たどたどしい言葉でも優秀でなくてもばかにしない、そういう人が聞いてくれる場が要るのではないか。そして善意ではなくて専門知識に基づく助言や治療のできる医師がやはりいるのではないかと思った。

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